書きたくなった時に書いて放置しておく処。
好き勝手に書いてるわりに誰かに見てもらいたい願望あり。
染み込む白き沈黙へようこそ
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それは、誰の記憶だと言うのか。
なんの記録だと言うのか。
そんなの、決まってるじゃないか。
あれは夢さ
蓄積してきたそれを整理する浅いまどろみ
覚めたらパチリと弾けて消えるそれ
覚めないのだとしたら、それは悪夢だ
どのみち、終わりが近いのだろう
パタンと閉じた本を危ういバランスの塔に組み込んでいく
新設したこの地下書庫には「あの店」の本の中でもとくに
思い入れのあるものを選んで収納してある。
フロアの最奥、手前に鍵の掛る分厚い扉まである書棚の内容は
なんてことはないプライベートコレクションなのだ。
まだ、壊れるわけにはいかなかったから
あの店が、最後の砦だった。
なくすわけにはいかなかった、どんな形であれ―
パタン、パタン
鮮やかな表紙の詩集、渋い色合いの文学全集
混ぜては組みなおしていく
丁寧に大切に、傷めないようにそっと
何をやっているのだろう。
大切な本でまるで子供みたいに
パタン
ゆっくりと崩して元の場所に戻していく
一冊一冊丁寧に
鮮やかな蒼い表紙の本を本棚に戻す時、ふと地上のことが頭をよぎる。
蒼い、亡霊
記録のトレース
悪い夢、なのだろうか。
辿ってきた道筋すべてが
誰にとって?
決まっている。
僕らを誰だと思っているんだ?
漏らした声がいやに反響してよけいに笑えて困ってしまう、本当に。
なんの記録だと言うのか。
そんなの、決まってるじゃないか。
あれは夢さ
蓄積してきたそれを整理する浅いまどろみ
覚めたらパチリと弾けて消えるそれ
覚めないのだとしたら、それは悪夢だ
どのみち、終わりが近いのだろう
パタンと閉じた本を危ういバランスの塔に組み込んでいく
新設したこの地下書庫には「あの店」の本の中でもとくに
思い入れのあるものを選んで収納してある。
フロアの最奥、手前に鍵の掛る分厚い扉まである書棚の内容は
なんてことはないプライベートコレクションなのだ。
まだ、壊れるわけにはいかなかったから
あの店が、最後の砦だった。
なくすわけにはいかなかった、どんな形であれ―
パタン、パタン
鮮やかな表紙の詩集、渋い色合いの文学全集
混ぜては組みなおしていく
丁寧に大切に、傷めないようにそっと
何をやっているのだろう。
大切な本でまるで子供みたいに
パタン
ゆっくりと崩して元の場所に戻していく
一冊一冊丁寧に
鮮やかな蒼い表紙の本を本棚に戻す時、ふと地上のことが頭をよぎる。
蒼い、亡霊
記録のトレース
悪い夢、なのだろうか。
辿ってきた道筋すべてが
誰にとって?
決まっている。
僕らを誰だと思っているんだ?
漏らした声がいやに反響してよけいに笑えて困ってしまう、本当に。
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巡るような回るような、焦燥
花、狂い咲く前に早くと
熱に溶け出した春風にみせられる。
飛び散ってしまいそうだと、思った。
軽い
人に対するその感想が一見すれば悪態以外の何物でもないことに気づき
口に出すことはおろかそもそも相手を貶す気すらなかったというのに
妙なところ生真面目な少女は人知れず慌てふためき直後自己嫌悪に陥っていた。
(違う違う!そうじゃなくて…!)
焦る必要もまた反省する必要もないのだか彼女自身によって彼女は少々
冷静さを欠いているのだった。
「雰囲気というか空気がふわふわと…」
そう、それだ。
我ながらぴったりな表現にとりあえず満足。
そう表された本人がすぐ隣できょとんとした顔つきで話すのをやめて
こちらを見つめているのに気付かないぐらいの満足さだ。
さらに言えば口に出していたことにも気付かない程の、である。
先ごろからしきりに心の葛藤を繰り返しているのにも関わらず連れの
世間話の合間合間に適度に相槌を打つという常人ならざる芸当を
やってのけていた人物とはにわかに信じがたい。
ちなみに内情の混乱具合とは裏腹に話の内容はしっかりと頭に入っている。
穏やかで大人しい気性の彼女であるが向上心が強く意外なほどに強かで
あることは彼女の知人の間では有名な話である。
元より掴みどころのない人だと感じていた。
だが今日はなんなのだろう。
違和感と呼ぶには微量過ぎる気もして
何か…
(あ、そういえば…)
こうして二人、遠出するのは「はじめて」だった。
二人連れだって(またはほかのメンツも交えて)出掛けること自体は
はじめてではないのだがいかんせ目的地がDG(ドラゴンズ・ゲート=修練の場)
いわば自由業であり公の人間である彼女達の日々の糧に繋がる「業務」と
呼べなくもないそれであるのでこんなに軽い気持ちで少し遠くともゲート転送
を用いず散歩ついでにブラブラと歩いていくなんてことはなかった。
そもそも彼女にしてみればめったにない遠出なのだ。
依頼でもなく所属する旅団単位での行動でもなくましてやランララやフォーナ
といった同盟のお馴染みの年中行事でもない、なんでもない日になんでもない
理由(「本場仕込み(楓華のどこかの老舗の看板分けだとか)の茶屋の
開店祝いお団子サービス券をゲットしたんだぁ!」と隣の彼女が飛び込んで
きたのが数時間前)での遠出。
危うく朝ごはんをひっくり返しそうになりながらも彼女の誘いを断る理由はなくて
どこを通っていこうかと、依頼を受けた時ぐらいにしか使わない地図を
引っぱり出してあれこれと話し合ったのだ。
そう、それで…―
ぱらぱらと、風に冷やされた赤茶が柔らかに頬を打つ。
冷たく張り付く感触に思わず目を閉じた。
(私、さっきから…)
はしゃいでいる。
他人から見れば恥ずかしくなるぐらいささやかに
だが一度自覚してしまえば赤面するぐらい羞恥してしまうのが
年下の彼女の可愛らしいところだ。
先ほどまでの気がかりと呼ぶには些細な突っかかりに代わりまるで
自覚がなかった自分に対する恥ずかしさがひたすらに渦巻く。
だが、立ち直りの早さと順応性の高さに定評がある(という噂がチラホラと)
彼女は赤面して俯き加減ながらやや強引に話を振るという戦法を取った。
曰く、「勘付かれたら負け」
気にした風もなく声色からもにこやかに返してくる相手との会話を
持続させつつちらりと伺えばプラプラとゆっくりした足取りで前を
向きながら話す横顔。
そして除々に自覚してゆく自身の身体の軽さ
羽のように、とまではいかなくても高揚し軽い興奮状態である精神で
繰る身体の感覚はとても軽い。
ふと目に入った。
やや前をゆく、年上の彼女の全身像。
近すぎて気付かなかった。
無意識の内の行動だったのかもしれない。
彼女も自分も当たり前のように武器を置いてきたこと
あまりにもあっさりと
ああもしかしたら「これ」が原因かもしれないと思う。
とくに彼女は重々しい武器ばかり愛用しているものだから余計に「そう」感じてしまうのかもしれないと。
しかし…
銀を流した背が揺れた。
気がついたように瞬きを繰り返す乾いた目
振り返る動きに沿うようにハラハラと舞う白銀に視界を覆われて、
急速に動きだそうとした瞼は、逆に大きく見開かれた。
瞬間―
「どうかした?」
僅か上半身を前に傾けるようにして顔を覗き込む。
すぐ側の相手の様子を窺う自然な動作は同時に二人にちょっとした新鮮さをもたらした。
カコン、渇いているようでなかなかに重量感溢れる音源がすべてを物語る。
幾つもの鋲が角ばった輪郭に沿うように打ち込まれまるで頑丈な鉄の箱か何か
のようなドッシリとしたデザインの、厚底サンダル。
10cmはある彼女らの身長差を補ったそれは履いている本人曰く、
「見た目ほど重くない」
見ている側としては俄かに信じがたいが心配してくれたことに礼を述べ
大丈夫だと伝えれば「そう?」としばし小首を傾げはしたがすぐにまた
機嫌よく歩きだしている。
まるで跳ねるように軽やかに、歩行の都度鈍く鳴る音がなければなんら違和感
のない文字通り毛色は異なるものの自分達の種族特有の軽やかな身のこなし
であり特別ご機嫌なことを差し引いても普段目にする彼女の姿そのものだった。
「彩」
一拍の後、染み渡るように理解してゆく。
久しく「その名」を呼ばれていなかったような不可解な感覚
土地特有の表記や表現の違いはあれど繰る言語は同じはずなのに、だ。
「彩」
よくわからない懐かしさに目を細め(逆光なせいもあった)
いつの間にかずいぶんと先に行ってしまっていた連れの姿に苦笑を洩らし
ながらサイは駆けてゆく。
白いしなやかな尻尾と揺れるリボンを靡かせて伸ばされた小さな手と
僅か揺れる赤色をとらえるために。
「お団子、楽しみですね。出雲さん」
そだね。と子供のように笑いかける傍ら恭しくするりと離れてゆく腕を
しっかりとホールド。サイ?と驚いたようなわずかな顔の変化に大いに満足。
よしよし。してやったり。
年上の彼女お得意の狐染みた悪戯な笑みを真似て「はい?」と
少し気取って答えてみせた。
するりと、隙間を抜けていく溶け残りの冷たさに思わず強張った手と
ゆっくりと握り返した手と二つ重なって、ふたり。
引かれる手の温度に戸惑って
もっとも曖昧な熱に縋ってしまいたかったけど
傍らの赤茶と自身の銀色を弄ぶ風に揺さぶられてかなわない。
花咲き乱れる前の、嵐の前触れのような不気味な温かさに耐え切れずに
こうして飛び出してきたなんて、ねぇそう言ったら君はどんな顔をするのかな?
それでも正直、この熱を何よりも求めてもっとも恐れているんだ。
(頬が熱い、な)
(まだ、風が冷たいけど…)
花、狂い咲く前に早くと
熱に溶け出した春風にみせられる。
飛び散ってしまいそうだと、思った。
軽い
人に対するその感想が一見すれば悪態以外の何物でもないことに気づき
口に出すことはおろかそもそも相手を貶す気すらなかったというのに
妙なところ生真面目な少女は人知れず慌てふためき直後自己嫌悪に陥っていた。
(違う違う!そうじゃなくて…!)
焦る必要もまた反省する必要もないのだか彼女自身によって彼女は少々
冷静さを欠いているのだった。
「雰囲気というか空気がふわふわと…」
そう、それだ。
我ながらぴったりな表現にとりあえず満足。
そう表された本人がすぐ隣できょとんとした顔つきで話すのをやめて
こちらを見つめているのに気付かないぐらいの満足さだ。
さらに言えば口に出していたことにも気付かない程の、である。
先ごろからしきりに心の葛藤を繰り返しているのにも関わらず連れの
世間話の合間合間に適度に相槌を打つという常人ならざる芸当を
やってのけていた人物とはにわかに信じがたい。
ちなみに内情の混乱具合とは裏腹に話の内容はしっかりと頭に入っている。
穏やかで大人しい気性の彼女であるが向上心が強く意外なほどに強かで
あることは彼女の知人の間では有名な話である。
元より掴みどころのない人だと感じていた。
だが今日はなんなのだろう。
違和感と呼ぶには微量過ぎる気もして
何か…
(あ、そういえば…)
こうして二人、遠出するのは「はじめて」だった。
二人連れだって(またはほかのメンツも交えて)出掛けること自体は
はじめてではないのだがいかんせ目的地がDG(ドラゴンズ・ゲート=修練の場)
いわば自由業であり公の人間である彼女達の日々の糧に繋がる「業務」と
呼べなくもないそれであるのでこんなに軽い気持ちで少し遠くともゲート転送
を用いず散歩ついでにブラブラと歩いていくなんてことはなかった。
そもそも彼女にしてみればめったにない遠出なのだ。
依頼でもなく所属する旅団単位での行動でもなくましてやランララやフォーナ
といった同盟のお馴染みの年中行事でもない、なんでもない日になんでもない
理由(「本場仕込み(楓華のどこかの老舗の看板分けだとか)の茶屋の
開店祝いお団子サービス券をゲットしたんだぁ!」と隣の彼女が飛び込んで
きたのが数時間前)での遠出。
危うく朝ごはんをひっくり返しそうになりながらも彼女の誘いを断る理由はなくて
どこを通っていこうかと、依頼を受けた時ぐらいにしか使わない地図を
引っぱり出してあれこれと話し合ったのだ。
そう、それで…―
ぱらぱらと、風に冷やされた赤茶が柔らかに頬を打つ。
冷たく張り付く感触に思わず目を閉じた。
(私、さっきから…)
はしゃいでいる。
他人から見れば恥ずかしくなるぐらいささやかに
だが一度自覚してしまえば赤面するぐらい羞恥してしまうのが
年下の彼女の可愛らしいところだ。
先ほどまでの気がかりと呼ぶには些細な突っかかりに代わりまるで
自覚がなかった自分に対する恥ずかしさがひたすらに渦巻く。
だが、立ち直りの早さと順応性の高さに定評がある(という噂がチラホラと)
彼女は赤面して俯き加減ながらやや強引に話を振るという戦法を取った。
曰く、「勘付かれたら負け」
気にした風もなく声色からもにこやかに返してくる相手との会話を
持続させつつちらりと伺えばプラプラとゆっくりした足取りで前を
向きながら話す横顔。
そして除々に自覚してゆく自身の身体の軽さ
羽のように、とまではいかなくても高揚し軽い興奮状態である精神で
繰る身体の感覚はとても軽い。
ふと目に入った。
やや前をゆく、年上の彼女の全身像。
近すぎて気付かなかった。
無意識の内の行動だったのかもしれない。
彼女も自分も当たり前のように武器を置いてきたこと
あまりにもあっさりと
ああもしかしたら「これ」が原因かもしれないと思う。
とくに彼女は重々しい武器ばかり愛用しているものだから余計に「そう」感じてしまうのかもしれないと。
しかし…
銀を流した背が揺れた。
気がついたように瞬きを繰り返す乾いた目
振り返る動きに沿うようにハラハラと舞う白銀に視界を覆われて、
急速に動きだそうとした瞼は、逆に大きく見開かれた。
瞬間―
「どうかした?」
僅か上半身を前に傾けるようにして顔を覗き込む。
すぐ側の相手の様子を窺う自然な動作は同時に二人にちょっとした新鮮さをもたらした。
カコン、渇いているようでなかなかに重量感溢れる音源がすべてを物語る。
幾つもの鋲が角ばった輪郭に沿うように打ち込まれまるで頑丈な鉄の箱か何か
のようなドッシリとしたデザインの、厚底サンダル。
10cmはある彼女らの身長差を補ったそれは履いている本人曰く、
「見た目ほど重くない」
見ている側としては俄かに信じがたいが心配してくれたことに礼を述べ
大丈夫だと伝えれば「そう?」としばし小首を傾げはしたがすぐにまた
機嫌よく歩きだしている。
まるで跳ねるように軽やかに、歩行の都度鈍く鳴る音がなければなんら違和感
のない文字通り毛色は異なるものの自分達の種族特有の軽やかな身のこなし
であり特別ご機嫌なことを差し引いても普段目にする彼女の姿そのものだった。
「彩」
一拍の後、染み渡るように理解してゆく。
久しく「その名」を呼ばれていなかったような不可解な感覚
土地特有の表記や表現の違いはあれど繰る言語は同じはずなのに、だ。
「彩」
よくわからない懐かしさに目を細め(逆光なせいもあった)
いつの間にかずいぶんと先に行ってしまっていた連れの姿に苦笑を洩らし
ながらサイは駆けてゆく。
白いしなやかな尻尾と揺れるリボンを靡かせて伸ばされた小さな手と
僅か揺れる赤色をとらえるために。
「お団子、楽しみですね。出雲さん」
そだね。と子供のように笑いかける傍ら恭しくするりと離れてゆく腕を
しっかりとホールド。サイ?と驚いたようなわずかな顔の変化に大いに満足。
よしよし。してやったり。
年上の彼女お得意の狐染みた悪戯な笑みを真似て「はい?」と
少し気取って答えてみせた。
するりと、隙間を抜けていく溶け残りの冷たさに思わず強張った手と
ゆっくりと握り返した手と二つ重なって、ふたり。
引かれる手の温度に戸惑って
もっとも曖昧な熱に縋ってしまいたかったけど
傍らの赤茶と自身の銀色を弄ぶ風に揺さぶられてかなわない。
花咲き乱れる前の、嵐の前触れのような不気味な温かさに耐え切れずに
こうして飛び出してきたなんて、ねぇそう言ったら君はどんな顔をするのかな?
それでも正直、この熱を何よりも求めてもっとも恐れているんだ。
微熱の季節
(頬が熱い、な)
(まだ、風が冷たいけど…)
あれは悪夢というのだろうか。
ボクは衰退した人間だから、てっきり生存本能なんて
めっきり機能不全かと思っていたのに。
少し笑ってしまった。
餓えたこともない人間にも潜在的な恐怖はあるものなんだなぁ。
喰われてしまうという恐怖
生きなければいけないという本能
ボクはあっさりと人間を放棄した。
人間の生存本能は人間を人間でいさせてはくれないのだ。
さっさと死を選ぶなんてそんな選択肢は頭になかった。
美しい死を演出したとしても、後に残るのは腐乱する肉塊なのだから
ひどい臭いのするそれは放置されるかあるいは、
喰われてゆく、
【食物連鎖】他の糧として
霊長類は種の存続が危ぶまれる状況にならない限り『共食い』はしないと
聞いたことがある。
人間にいたっては【理性】でもって固く固く禁じている。
本能で知っているからだ。
だがその理性のおかげで人間は人間でなくなる際に等しくイカれてしまうのだろう。
獣でも人間でもなくなったそれは生存本能のみで出来ている。
二足歩行がもたらした肥大した脳は食糧を探すことのみに使われる。
広がった気管は耳障りな奇声と口汚い罵倒、断末魔の絶叫しか紡がない。
発達した指先は搾取するためにのみ巧みに蠢いて、
人は滅ぶのだ。
獣ですら恐れ慄く生存本能をして人は絶滅するのだろう。
そんな夢をみた。
倒れている人、顔がよく見えない。潰してしまったから
側に転がった屑。食べれない用がないモノ。ボクが贈ったもの。
血で染まった両手、舐めとって
喉元に食らいついた。
血の味が妙にリアルだったのに肉の感触を感じる前に目が覚めた。
両手に殺した感覚だけが長いこと残って朝食は諦めることにした。
血の味だけ妙にリアルだった。
あなたの血の味が妙にリアルだった。
ボクは衰退した人間だから、てっきり生存本能なんて
めっきり機能不全かと思っていたのに。
少し笑ってしまった。
餓えたこともない人間にも潜在的な恐怖はあるものなんだなぁ。
喰われてしまうという恐怖
生きなければいけないという本能
ボクはあっさりと人間を放棄した。
人間の生存本能は人間を人間でいさせてはくれないのだ。
さっさと死を選ぶなんてそんな選択肢は頭になかった。
美しい死を演出したとしても、後に残るのは腐乱する肉塊なのだから
ひどい臭いのするそれは放置されるかあるいは、
喰われてゆく、
【食物連鎖】他の糧として
霊長類は種の存続が危ぶまれる状況にならない限り『共食い』はしないと
聞いたことがある。
人間にいたっては【理性】でもって固く固く禁じている。
本能で知っているからだ。
だがその理性のおかげで人間は人間でなくなる際に等しくイカれてしまうのだろう。
獣でも人間でもなくなったそれは生存本能のみで出来ている。
二足歩行がもたらした肥大した脳は食糧を探すことのみに使われる。
広がった気管は耳障りな奇声と口汚い罵倒、断末魔の絶叫しか紡がない。
発達した指先は搾取するためにのみ巧みに蠢いて、
人は滅ぶのだ。
獣ですら恐れ慄く生存本能をして人は絶滅するのだろう。
そんな夢をみた。
倒れている人、顔がよく見えない。潰してしまったから
側に転がった屑。食べれない用がないモノ。ボクが贈ったもの。
血で染まった両手、舐めとって
喉元に食らいついた。
血の味が妙にリアルだったのに肉の感触を感じる前に目が覚めた。
両手に殺した感覚だけが長いこと残って朝食は諦めることにした。
血の味だけ妙にリアルだった。
あなたの血の味が妙にリアルだった。