書きたくなった時に書いて放置しておく処。
好き勝手に書いてるわりに誰かに見てもらいたい願望あり。
染み込む白き沈黙へようこそ
×
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「姉さん」
「んー?」
「姉さんの、夢はなに?」
「唐突だね。」
「はぐらかさないで、」
「んー夢かぁ…夢ねぇ……」
「………ないの?」
「ねぇイヨ、ないのとわからないのは一緒かな?」
「…多分」
「そっかぁ…ボクって夢のない人間なのかなー」
「それを聞いてるんだけど。」
「夢って生きる目標だよね、指針。これをするために生きるんだって決意の表現。」
「うん…」
「夢がある人は生きようとしてる人ってことだね。」
「…だから?」
「んーだから、ボクは夢をみる。夢に夢をみている。」
「姉さん、」
「イズモという人間は、誰かの目標で指針、決意の象徴、憧れの偶像、怒りの矛先、
希望の光、憎悪の塊、そんな夢」
「………。」
「ボクは、誰かの夢ならいい。覚めては消える夢。夢をみたこと、それだけをぼんやりと
覚えていてはいても、はっきりと思い出せない夢。」
「姉さんは、臆病だ。」
「そうだね。ボクは臆病で、自分本位だ。もらいたいから与えるのに、
いざもらえるとなると計算高く逃げてすべてを受け止めない、
貪欲に奪おうとするのに本当に大切なものには手を出さない。
それでも、与えたいと言い与えられたいと言うんだから。」
「わかってるから、余計に性質が悪い…」
「客観性って好きなんだ。責任逃れができるから。自分を逃がし匿う一番いい方法は、
自己を殺すこと。自己主張しない、柔軟に受け入れる、状況に流される。
なのに、人を好きになる。
そばにいて欲しいと思う。
いずれ恐怖の対象になるとわかっていても、
いつか自分を傷つけるかもしれないと常に疑っていても、
他を求める自がある。
孤独は癒しであり安息、そして絶望。
ひとりはいや…でも、孤独は優しい。
痛いのは、いやなんだ。」
「そうやって、姉さんはこれからも自分を可愛がって甘やかして生きていくのね。」
「そう、少なくても君は、それを望んでいるでしょう?」
「…わたしの、わたし達のせいにするの?」
「違うよイヨ。そうじゃない。これはボクの夢だけど、ボクのすべては血の中にある。
ボクの中に流れる血、君と同じ血、ボクらの血がボクらを家族にしボクらを囲い繋ぎ
覆い隠して狭い狭い箱に閉じ込める。ボクのすべては家族で、家族がボクの世界で、
ボクのすべてなんだから、ボクはいつだって幸せなんだよ?」
(そうやってあなたは、いつも私の言って欲しい言葉を吐いて、うまいこと逃げていたね)
「んー?」
「姉さんの、夢はなに?」
「唐突だね。」
「はぐらかさないで、」
「んー夢かぁ…夢ねぇ……」
「………ないの?」
「ねぇイヨ、ないのとわからないのは一緒かな?」
「…多分」
「そっかぁ…ボクって夢のない人間なのかなー」
「それを聞いてるんだけど。」
「夢って生きる目標だよね、指針。これをするために生きるんだって決意の表現。」
「うん…」
「夢がある人は生きようとしてる人ってことだね。」
「…だから?」
「んーだから、ボクは夢をみる。夢に夢をみている。」
「姉さん、」
「イズモという人間は、誰かの目標で指針、決意の象徴、憧れの偶像、怒りの矛先、
希望の光、憎悪の塊、そんな夢」
「………。」
「ボクは、誰かの夢ならいい。覚めては消える夢。夢をみたこと、それだけをぼんやりと
覚えていてはいても、はっきりと思い出せない夢。」
「姉さんは、臆病だ。」
「そうだね。ボクは臆病で、自分本位だ。もらいたいから与えるのに、
いざもらえるとなると計算高く逃げてすべてを受け止めない、
貪欲に奪おうとするのに本当に大切なものには手を出さない。
それでも、与えたいと言い与えられたいと言うんだから。」
「わかってるから、余計に性質が悪い…」
「客観性って好きなんだ。責任逃れができるから。自分を逃がし匿う一番いい方法は、
自己を殺すこと。自己主張しない、柔軟に受け入れる、状況に流される。
なのに、人を好きになる。
そばにいて欲しいと思う。
いずれ恐怖の対象になるとわかっていても、
いつか自分を傷つけるかもしれないと常に疑っていても、
他を求める自がある。
孤独は癒しであり安息、そして絶望。
ひとりはいや…でも、孤独は優しい。
痛いのは、いやなんだ。」
「そうやって、姉さんはこれからも自分を可愛がって甘やかして生きていくのね。」
「そう、少なくても君は、それを望んでいるでしょう?」
「…わたしの、わたし達のせいにするの?」
「違うよイヨ。そうじゃない。これはボクの夢だけど、ボクのすべては血の中にある。
ボクの中に流れる血、君と同じ血、ボクらの血がボクらを家族にしボクらを囲い繋ぎ
覆い隠して狭い狭い箱に閉じ込める。ボクのすべては家族で、家族がボクの世界で、
ボクのすべてなんだから、ボクはいつだって幸せなんだよ?」
(そうやってあなたは、いつも私の言って欲しい言葉を吐いて、うまいこと逃げていたね)
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ボクの日常は、とても穏やかだ。
目覚めはいつも突然で、夢に未練はなく次の瞬間には跡形もなく霧散。
目が覚めた時を朝としているけど、時たま真夜中だったり夕方だったりする時もあって、
でもだいたいは世界に合っている。
目が覚めると、ボクはとても不思議な気分になり首を傾げる。
そうするとボキリッと首の骨が鳴るから、ついでに反対側にも倒してグルリと一回転。
バキゴキ、うんすっきり。
首がすっきりしたら、次は怖々と左腕を上げて、上がったら指を小指から順に動かしてゆく
人形を繰る時のように、器用に細かな動きをみせるそれをボーっと眺めている間に
右腕も同じことを繰り返し、足も片足から順に動かしていく。
一通り四肢を動かすとなんだか自分は納得する。
何を何に納得するのかわからないけど、これでいいと思う。
起きて身仕度を整えたら、結音と一緒にご飯を食べる。
結音は同居猫さんだ。
ご飯を食べたら、結音の気が向けば遊んで過ごすし彼女の気が向かなかったら
別のことをする。
具体的には家事をしたり、誰かが来たら一緒にお茶したり散歩したりいろんなこと。
一人と一匹で住むには天泣邸は広い、とんでもなく広い。
使っていない部屋のほうが圧倒的に多いのはもちろんのこと、たまに所定の位置に部屋がなかったりいきなり開かなくなる部屋があったりと、掃除が大変な上に目的の部屋にたどり着けないことがざらにある。
それでも、引っ越そうとかもっと小さな家に建て替えようとは思わない。
欲張りで臆病で忘れっぽくて失くしやすいボクは、たくさんの部屋とたくさんのドアと
たくさんの鍵がないと、大事な大切なものをちゃんと忘れずに仕舞って守ることが出来ない。
この天泣邸に、不必要な部屋なんて一つとしてない。
だから優しくて生温くて穏やかで、とても安心出来る。
その日は寝室に入ったつもりがぜんぜん知らない部屋だった。
よくあることなので驚かなかったけれど、部屋一杯に「彼」の思い出が入っていて
少し驚いた。なんだ、最近見ないと思ったらこんなところに仕舞い込んでいたんだな
と思い、一つ一つ丁寧に埃を落としてあげた。
本当は、ベットが一つおいてあるだけの何もない空き部屋だったけれど
ボクが乱雑に放り込んだ「彼」のいろんなものが床に落ちていた。
思い出や一緒に行った場所、あげた品、もらったもの、癖や言葉バラバラと散らばっていた。
このままその部屋で寝てしまってもよかったけれど、夢を見るにはもったいなくて
せっかくだけど部屋を出て鍵を掛けた。
ジャラジャラと音を立てるマスターキーは、頑丈な箱に仕舞ってしまう。
これがいつもいつも開かなくなるから困ったものだ。
何気ない瞬間に、消えてしまいたくなる時がある。
身体のどこかが痛いような足りないような気分になる。
目覚めた時の不思議な気分に似ているけど、あれよりもっと焦燥感に駆られる。
どうにかしないといけない気分になる、どうにでもなれという気分になる。
どちらも本物なのだ。
本物の衝動なのだ。
だからどうすることも出来なくて、ボクは夢を見ないことを祈りながら逃げるように
眠りにつくようにしている。
ボクはどちらの衝動もボクのもので、どちらも本物だと知っているから、
一人でなんとかするには意識を一回閉じてしまえばいいとちゃんとわかっている。
でもなかなか寝付けない性質だから、ちょっとしたおまじない。
ただちょっとだけ、本当にちょっとだけ願うのだ。
目が覚めたら、誰かがボクの手を握って隣で眠っていてくれたらなぁっと。
そんな夢のようなことを想えば、それ以上夢みたいな夢は見ないから、
とても安心して、とても眠くなって、ボクはゆっくり瞼をおとす。
こわくないよだいじょうぶだよとじぶんにおしえてあげながら
目覚めはいつも突然で、夢に未練はなく次の瞬間には跡形もなく霧散。
目が覚めた時を朝としているけど、時たま真夜中だったり夕方だったりする時もあって、
でもだいたいは世界に合っている。
目が覚めると、ボクはとても不思議な気分になり首を傾げる。
そうするとボキリッと首の骨が鳴るから、ついでに反対側にも倒してグルリと一回転。
バキゴキ、うんすっきり。
首がすっきりしたら、次は怖々と左腕を上げて、上がったら指を小指から順に動かしてゆく
人形を繰る時のように、器用に細かな動きをみせるそれをボーっと眺めている間に
右腕も同じことを繰り返し、足も片足から順に動かしていく。
一通り四肢を動かすとなんだか自分は納得する。
何を何に納得するのかわからないけど、これでいいと思う。
起きて身仕度を整えたら、結音と一緒にご飯を食べる。
結音は同居猫さんだ。
ご飯を食べたら、結音の気が向けば遊んで過ごすし彼女の気が向かなかったら
別のことをする。
具体的には家事をしたり、誰かが来たら一緒にお茶したり散歩したりいろんなこと。
一人と一匹で住むには天泣邸は広い、とんでもなく広い。
使っていない部屋のほうが圧倒的に多いのはもちろんのこと、たまに所定の位置に部屋がなかったりいきなり開かなくなる部屋があったりと、掃除が大変な上に目的の部屋にたどり着けないことがざらにある。
それでも、引っ越そうとかもっと小さな家に建て替えようとは思わない。
欲張りで臆病で忘れっぽくて失くしやすいボクは、たくさんの部屋とたくさんのドアと
たくさんの鍵がないと、大事な大切なものをちゃんと忘れずに仕舞って守ることが出来ない。
この天泣邸に、不必要な部屋なんて一つとしてない。
だから優しくて生温くて穏やかで、とても安心出来る。
その日は寝室に入ったつもりがぜんぜん知らない部屋だった。
よくあることなので驚かなかったけれど、部屋一杯に「彼」の思い出が入っていて
少し驚いた。なんだ、最近見ないと思ったらこんなところに仕舞い込んでいたんだな
と思い、一つ一つ丁寧に埃を落としてあげた。
本当は、ベットが一つおいてあるだけの何もない空き部屋だったけれど
ボクが乱雑に放り込んだ「彼」のいろんなものが床に落ちていた。
思い出や一緒に行った場所、あげた品、もらったもの、癖や言葉バラバラと散らばっていた。
このままその部屋で寝てしまってもよかったけれど、夢を見るにはもったいなくて
せっかくだけど部屋を出て鍵を掛けた。
ジャラジャラと音を立てるマスターキーは、頑丈な箱に仕舞ってしまう。
これがいつもいつも開かなくなるから困ったものだ。
何気ない瞬間に、消えてしまいたくなる時がある。
身体のどこかが痛いような足りないような気分になる。
目覚めた時の不思議な気分に似ているけど、あれよりもっと焦燥感に駆られる。
どうにかしないといけない気分になる、どうにでもなれという気分になる。
どちらも本物なのだ。
本物の衝動なのだ。
だからどうすることも出来なくて、ボクは夢を見ないことを祈りながら逃げるように
眠りにつくようにしている。
ボクはどちらの衝動もボクのもので、どちらも本物だと知っているから、
一人でなんとかするには意識を一回閉じてしまえばいいとちゃんとわかっている。
でもなかなか寝付けない性質だから、ちょっとしたおまじない。
ただちょっとだけ、本当にちょっとだけ願うのだ。
目が覚めたら、誰かがボクの手を握って隣で眠っていてくれたらなぁっと。
そんな夢のようなことを想えば、それ以上夢みたいな夢は見ないから、
とても安心して、とても眠くなって、ボクはゆっくり瞼をおとす。
こわくないよだいじょうぶだよとじぶんにおしえてあげながら
巡るような回るような、焦燥
花、狂い咲く前に早くと
熱に溶け出した春風にみせられる。
飛び散ってしまいそうだと、思った。
軽い
人に対するその感想が一見すれば悪態以外の何物でもないことに気づき
口に出すことはおろかそもそも相手を貶す気すらなかったというのに
妙なところ生真面目な少女は人知れず慌てふためき直後自己嫌悪に陥っていた。
(違う違う!そうじゃなくて…!)
焦る必要もまた反省する必要もないのだか彼女自身によって彼女は少々
冷静さを欠いているのだった。
「雰囲気というか空気がふわふわと…」
そう、それだ。
我ながらぴったりな表現にとりあえず満足。
そう表された本人がすぐ隣できょとんとした顔つきで話すのをやめて
こちらを見つめているのに気付かないぐらいの満足さだ。
さらに言えば口に出していたことにも気付かない程の、である。
先ごろからしきりに心の葛藤を繰り返しているのにも関わらず連れの
世間話の合間合間に適度に相槌を打つという常人ならざる芸当を
やってのけていた人物とはにわかに信じがたい。
ちなみに内情の混乱具合とは裏腹に話の内容はしっかりと頭に入っている。
穏やかで大人しい気性の彼女であるが向上心が強く意外なほどに強かで
あることは彼女の知人の間では有名な話である。
元より掴みどころのない人だと感じていた。
だが今日はなんなのだろう。
違和感と呼ぶには微量過ぎる気もして
何か…
(あ、そういえば…)
こうして二人、遠出するのは「はじめて」だった。
二人連れだって(またはほかのメンツも交えて)出掛けること自体は
はじめてではないのだがいかんせ目的地がDG(ドラゴンズ・ゲート=修練の場)
いわば自由業であり公の人間である彼女達の日々の糧に繋がる「業務」と
呼べなくもないそれであるのでこんなに軽い気持ちで少し遠くともゲート転送
を用いず散歩ついでにブラブラと歩いていくなんてことはなかった。
そもそも彼女にしてみればめったにない遠出なのだ。
依頼でもなく所属する旅団単位での行動でもなくましてやランララやフォーナ
といった同盟のお馴染みの年中行事でもない、なんでもない日になんでもない
理由(「本場仕込み(楓華のどこかの老舗の看板分けだとか)の茶屋の
開店祝いお団子サービス券をゲットしたんだぁ!」と隣の彼女が飛び込んで
きたのが数時間前)での遠出。
危うく朝ごはんをひっくり返しそうになりながらも彼女の誘いを断る理由はなくて
どこを通っていこうかと、依頼を受けた時ぐらいにしか使わない地図を
引っぱり出してあれこれと話し合ったのだ。
そう、それで…―
ぱらぱらと、風に冷やされた赤茶が柔らかに頬を打つ。
冷たく張り付く感触に思わず目を閉じた。
(私、さっきから…)
はしゃいでいる。
他人から見れば恥ずかしくなるぐらいささやかに
だが一度自覚してしまえば赤面するぐらい羞恥してしまうのが
年下の彼女の可愛らしいところだ。
先ほどまでの気がかりと呼ぶには些細な突っかかりに代わりまるで
自覚がなかった自分に対する恥ずかしさがひたすらに渦巻く。
だが、立ち直りの早さと順応性の高さに定評がある(という噂がチラホラと)
彼女は赤面して俯き加減ながらやや強引に話を振るという戦法を取った。
曰く、「勘付かれたら負け」
気にした風もなく声色からもにこやかに返してくる相手との会話を
持続させつつちらりと伺えばプラプラとゆっくりした足取りで前を
向きながら話す横顔。
そして除々に自覚してゆく自身の身体の軽さ
羽のように、とまではいかなくても高揚し軽い興奮状態である精神で
繰る身体の感覚はとても軽い。
ふと目に入った。
やや前をゆく、年上の彼女の全身像。
近すぎて気付かなかった。
無意識の内の行動だったのかもしれない。
彼女も自分も当たり前のように武器を置いてきたこと
あまりにもあっさりと
ああもしかしたら「これ」が原因かもしれないと思う。
とくに彼女は重々しい武器ばかり愛用しているものだから余計に「そう」感じてしまうのかもしれないと。
しかし…
銀を流した背が揺れた。
気がついたように瞬きを繰り返す乾いた目
振り返る動きに沿うようにハラハラと舞う白銀に視界を覆われて、
急速に動きだそうとした瞼は、逆に大きく見開かれた。
瞬間―
「どうかした?」
僅か上半身を前に傾けるようにして顔を覗き込む。
すぐ側の相手の様子を窺う自然な動作は同時に二人にちょっとした新鮮さをもたらした。
カコン、渇いているようでなかなかに重量感溢れる音源がすべてを物語る。
幾つもの鋲が角ばった輪郭に沿うように打ち込まれまるで頑丈な鉄の箱か何か
のようなドッシリとしたデザインの、厚底サンダル。
10cmはある彼女らの身長差を補ったそれは履いている本人曰く、
「見た目ほど重くない」
見ている側としては俄かに信じがたいが心配してくれたことに礼を述べ
大丈夫だと伝えれば「そう?」としばし小首を傾げはしたがすぐにまた
機嫌よく歩きだしている。
まるで跳ねるように軽やかに、歩行の都度鈍く鳴る音がなければなんら違和感
のない文字通り毛色は異なるものの自分達の種族特有の軽やかな身のこなし
であり特別ご機嫌なことを差し引いても普段目にする彼女の姿そのものだった。
「彩」
一拍の後、染み渡るように理解してゆく。
久しく「その名」を呼ばれていなかったような不可解な感覚
土地特有の表記や表現の違いはあれど繰る言語は同じはずなのに、だ。
「彩」
よくわからない懐かしさに目を細め(逆光なせいもあった)
いつの間にかずいぶんと先に行ってしまっていた連れの姿に苦笑を洩らし
ながらサイは駆けてゆく。
白いしなやかな尻尾と揺れるリボンを靡かせて伸ばされた小さな手と
僅か揺れる赤色をとらえるために。
「お団子、楽しみですね。出雲さん」
そだね。と子供のように笑いかける傍ら恭しくするりと離れてゆく腕を
しっかりとホールド。サイ?と驚いたようなわずかな顔の変化に大いに満足。
よしよし。してやったり。
年上の彼女お得意の狐染みた悪戯な笑みを真似て「はい?」と
少し気取って答えてみせた。
するりと、隙間を抜けていく溶け残りの冷たさに思わず強張った手と
ゆっくりと握り返した手と二つ重なって、ふたり。
引かれる手の温度に戸惑って
もっとも曖昧な熱に縋ってしまいたかったけど
傍らの赤茶と自身の銀色を弄ぶ風に揺さぶられてかなわない。
花咲き乱れる前の、嵐の前触れのような不気味な温かさに耐え切れずに
こうして飛び出してきたなんて、ねぇそう言ったら君はどんな顔をするのかな?
それでも正直、この熱を何よりも求めてもっとも恐れているんだ。
(頬が熱い、な)
(まだ、風が冷たいけど…)
花、狂い咲く前に早くと
熱に溶け出した春風にみせられる。
飛び散ってしまいそうだと、思った。
軽い
人に対するその感想が一見すれば悪態以外の何物でもないことに気づき
口に出すことはおろかそもそも相手を貶す気すらなかったというのに
妙なところ生真面目な少女は人知れず慌てふためき直後自己嫌悪に陥っていた。
(違う違う!そうじゃなくて…!)
焦る必要もまた反省する必要もないのだか彼女自身によって彼女は少々
冷静さを欠いているのだった。
「雰囲気というか空気がふわふわと…」
そう、それだ。
我ながらぴったりな表現にとりあえず満足。
そう表された本人がすぐ隣できょとんとした顔つきで話すのをやめて
こちらを見つめているのに気付かないぐらいの満足さだ。
さらに言えば口に出していたことにも気付かない程の、である。
先ごろからしきりに心の葛藤を繰り返しているのにも関わらず連れの
世間話の合間合間に適度に相槌を打つという常人ならざる芸当を
やってのけていた人物とはにわかに信じがたい。
ちなみに内情の混乱具合とは裏腹に話の内容はしっかりと頭に入っている。
穏やかで大人しい気性の彼女であるが向上心が強く意外なほどに強かで
あることは彼女の知人の間では有名な話である。
元より掴みどころのない人だと感じていた。
だが今日はなんなのだろう。
違和感と呼ぶには微量過ぎる気もして
何か…
(あ、そういえば…)
こうして二人、遠出するのは「はじめて」だった。
二人連れだって(またはほかのメンツも交えて)出掛けること自体は
はじめてではないのだがいかんせ目的地がDG(ドラゴンズ・ゲート=修練の場)
いわば自由業であり公の人間である彼女達の日々の糧に繋がる「業務」と
呼べなくもないそれであるのでこんなに軽い気持ちで少し遠くともゲート転送
を用いず散歩ついでにブラブラと歩いていくなんてことはなかった。
そもそも彼女にしてみればめったにない遠出なのだ。
依頼でもなく所属する旅団単位での行動でもなくましてやランララやフォーナ
といった同盟のお馴染みの年中行事でもない、なんでもない日になんでもない
理由(「本場仕込み(楓華のどこかの老舗の看板分けだとか)の茶屋の
開店祝いお団子サービス券をゲットしたんだぁ!」と隣の彼女が飛び込んで
きたのが数時間前)での遠出。
危うく朝ごはんをひっくり返しそうになりながらも彼女の誘いを断る理由はなくて
どこを通っていこうかと、依頼を受けた時ぐらいにしか使わない地図を
引っぱり出してあれこれと話し合ったのだ。
そう、それで…―
ぱらぱらと、風に冷やされた赤茶が柔らかに頬を打つ。
冷たく張り付く感触に思わず目を閉じた。
(私、さっきから…)
はしゃいでいる。
他人から見れば恥ずかしくなるぐらいささやかに
だが一度自覚してしまえば赤面するぐらい羞恥してしまうのが
年下の彼女の可愛らしいところだ。
先ほどまでの気がかりと呼ぶには些細な突っかかりに代わりまるで
自覚がなかった自分に対する恥ずかしさがひたすらに渦巻く。
だが、立ち直りの早さと順応性の高さに定評がある(という噂がチラホラと)
彼女は赤面して俯き加減ながらやや強引に話を振るという戦法を取った。
曰く、「勘付かれたら負け」
気にした風もなく声色からもにこやかに返してくる相手との会話を
持続させつつちらりと伺えばプラプラとゆっくりした足取りで前を
向きながら話す横顔。
そして除々に自覚してゆく自身の身体の軽さ
羽のように、とまではいかなくても高揚し軽い興奮状態である精神で
繰る身体の感覚はとても軽い。
ふと目に入った。
やや前をゆく、年上の彼女の全身像。
近すぎて気付かなかった。
無意識の内の行動だったのかもしれない。
彼女も自分も当たり前のように武器を置いてきたこと
あまりにもあっさりと
ああもしかしたら「これ」が原因かもしれないと思う。
とくに彼女は重々しい武器ばかり愛用しているものだから余計に「そう」感じてしまうのかもしれないと。
しかし…
銀を流した背が揺れた。
気がついたように瞬きを繰り返す乾いた目
振り返る動きに沿うようにハラハラと舞う白銀に視界を覆われて、
急速に動きだそうとした瞼は、逆に大きく見開かれた。
瞬間―
「どうかした?」
僅か上半身を前に傾けるようにして顔を覗き込む。
すぐ側の相手の様子を窺う自然な動作は同時に二人にちょっとした新鮮さをもたらした。
カコン、渇いているようでなかなかに重量感溢れる音源がすべてを物語る。
幾つもの鋲が角ばった輪郭に沿うように打ち込まれまるで頑丈な鉄の箱か何か
のようなドッシリとしたデザインの、厚底サンダル。
10cmはある彼女らの身長差を補ったそれは履いている本人曰く、
「見た目ほど重くない」
見ている側としては俄かに信じがたいが心配してくれたことに礼を述べ
大丈夫だと伝えれば「そう?」としばし小首を傾げはしたがすぐにまた
機嫌よく歩きだしている。
まるで跳ねるように軽やかに、歩行の都度鈍く鳴る音がなければなんら違和感
のない文字通り毛色は異なるものの自分達の種族特有の軽やかな身のこなし
であり特別ご機嫌なことを差し引いても普段目にする彼女の姿そのものだった。
「彩」
一拍の後、染み渡るように理解してゆく。
久しく「その名」を呼ばれていなかったような不可解な感覚
土地特有の表記や表現の違いはあれど繰る言語は同じはずなのに、だ。
「彩」
よくわからない懐かしさに目を細め(逆光なせいもあった)
いつの間にかずいぶんと先に行ってしまっていた連れの姿に苦笑を洩らし
ながらサイは駆けてゆく。
白いしなやかな尻尾と揺れるリボンを靡かせて伸ばされた小さな手と
僅か揺れる赤色をとらえるために。
「お団子、楽しみですね。出雲さん」
そだね。と子供のように笑いかける傍ら恭しくするりと離れてゆく腕を
しっかりとホールド。サイ?と驚いたようなわずかな顔の変化に大いに満足。
よしよし。してやったり。
年上の彼女お得意の狐染みた悪戯な笑みを真似て「はい?」と
少し気取って答えてみせた。
するりと、隙間を抜けていく溶け残りの冷たさに思わず強張った手と
ゆっくりと握り返した手と二つ重なって、ふたり。
引かれる手の温度に戸惑って
もっとも曖昧な熱に縋ってしまいたかったけど
傍らの赤茶と自身の銀色を弄ぶ風に揺さぶられてかなわない。
花咲き乱れる前の、嵐の前触れのような不気味な温かさに耐え切れずに
こうして飛び出してきたなんて、ねぇそう言ったら君はどんな顔をするのかな?
それでも正直、この熱を何よりも求めてもっとも恐れているんだ。
微熱の季節
(頬が熱い、な)
(まだ、風が冷たいけど…)