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 書きたくなった時に書いて放置しておく処。 好き勝手に書いてるわりに誰かに見てもらいたい願望あり。 染み込む白き沈黙へようこそ
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少女の心を忘れない母は、この時期になると決まって
子ども達にさくらの樹の下にある屍体の話をした。
母はとても博識な女性で、読書家であったから兄や姉達は
また母さんがお気に入りの本の話をはじめたと苦笑まじりに耳を傾け、
ボクと妹は母がまるで見てきたかのように語る話を固唾を飲んで聞き入っていた。

 母は、普段はもの静かな人で子ども達を叱る時でさえ声を荒げることなく、
とつとつと諭すように話して聞かせる、そんな質素で凛とした女性なのだけれど、
時折まるで年頃の少女のように、あるいはボクら末の姉妹と比べても遜色ないような
童女のように振舞うことがあった。
とはいえそれはほんの一時で、ふと気が付くといつもの「母の顔」に戻っている。
ふとした瞬間に視界の端に映り、あ、と思った瞬間には何事もなかったかのように
いつもの母がいる。
まるで目の錯覚かこちらの思い違い、夢幻のような覚めては消える変貌。
日常の一コマ一コマの中に紛れるようにして、そんな母の姿はあった。
 さくらの話をする母は、まるで恋人の話をする少女のような興奮と甘酸っぱい羞恥に
彩られ、こっそり秘密を打ち明けるかのような悪戯めいた雰囲気を纏っていたと、
少なくともボクは感じていた。
そんな母の姿も、日常の一部でしかなかったボクにしれてみれば別段疑問に思うことも
なく、実はその母の姿こそ、まさにこっそりとボクだけに「秘密」を打ち明ける行動
であったことを知るのはずいぶんと後になってからだった。
ほかの兄弟たちにとって、母はどこまでも母であり尊敬すべき女性だった。
ボクにとってもそれは変わらない、ただボクだけが母に「少女」を見ていた。



―出雲、出雲、私の出雲。
あなたはきっとそれはそれは奇麗な屍体になるのでしょうね。
そうして、狂おしいまでに美しい花を咲かせるのでしょうね。
その花は、どんな色をしているのかしら?
あなたの瞳のような、血よりも赤い花びらかしら?
それともあなたの肌のような、なんの曇りも濁りもない真っさらな白かしら?
毎年この時期になるとね、私はそのことばかり考えてしまって頭がいっぱいなの。
あなたが生まれてからずっと、ずっとそうなのよ?
あなたがもし、生まれる前に死んでしまっていたら、私は迷わずあなたを埋めたと思うわ。
勿論、桜の木の下に。
でもあなたは生まれてきてくれた。
こんなに奇麗に、こんなに歪に育ってくれた。
出雲、出雲、私の出雲。
今のあなたを桜になんてあげない。
だって私の出雲だもの。
でもね、これだけは覚えておいて頂戴。
あなたは、桜に愛された子。
あなたが望めば、あの花は―――



あの子は、さくらのみせた夢なんかじゃない。
あの子はたしかに、ボクの隣にいてくれた。
今年も花は咲き誇り、また冷たい地面へと沈んでいく。
その度に花はボクを手招いて、母はボクの手を引いて、
ボクは一人、愛に包まれながらひっそりと夢見ることを願うのだ。
あの子は、桜がともて好きだった。
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玉兎
性別:
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職業:
実質的な生産性がない職業
自己紹介:
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でも狐属性
されど猫好き
さっぱりカラカラ
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ゆるゆるダラダラ
でも嵌ると爆走
されど飽き易く
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